2026年7月29日に“Penthouse”が3rd Album『Neon Garden』をリリース。最新曲「一二三」「青く在れ」などを含む全10曲を収録。Penthouseの真骨頂ともいえる洗練されたアンサンブルと多彩なボーカルワークが凝縮され、ポップス、R&B、ソウルを自在に横断する唯一無二のサウンドがさらに進化。活動の過渡期である現在、改めて今の自分たちのルーツやオリジナリティを洗い出し磨き上げたサウンドが集結しています。
さて、今日のうたではそんな“Penthouse”による歌詞エッセイを3週連続でお届けします。第1弾は大原拓真が執筆。新曲「恋する神様」で挑んだのは、Penthouse史上もっとも“キャッチー”な歌詞。ボーカリストの“ニン”と向き合いながら、キャッチーさを成立させるために重ねた試行錯誤とは…。
新曲「恋する神様」は、Penthouse史上一番キャッチーな歌詞を書いた。
キャッチーってことは売れ線? セルアウトじゃん。置きに行ったね。そう思う方もいるだろう。
否。
バンド史上一番チャレンジングな歌詞である。
一体何がチャレンジングなのだろうか?
キャッチーな歌詞なんて誰もが目指すものだし、一番簡単に書けるだろう?
そう言った声が聞こえてきそうだが、話はそう簡単ではないのだ。
僕らPenthouseにとって、今回の曲のような歌詞を書くためには、“Penthouse印”というものをいつもより逸脱して、ギリギリを攻める必要があった。
作詞において大事なことに、ボーカリストの“ニン”というものがある。
“ニン”というのはいわゆるボーカリストのキャラクターや人柄。そのボーカリストが歌って似合う世界観であるか?ということを気にして作詞家は歌詞を書く。例えば、重厚な男性オペラ歌手にキャピキャピした歌詞を歌わせたり、キラキラ女子高生ボーカルに古めかしい歌詞を歌わせたりすると、何だか滑稽になるのは想像できるだろう。
僕らPenthouseは男女のツインボーカル。その2人の“ニン”はキャッチーさの中でも、成立するものを選ぶ“ニン”である。
キャッチーなものだけを追い求めていると、違和感が出てきてしまう。
そう。アイドルが歌うようなキャッチーの金太郎飴みたいな歌詞は、実は誰にでも歌えるものではないのだ。
これは恐らく僕ら以外の多くのアーティストも同様に悩んでいることだと思う。キャッチーをなんでも歌えるわけではないというのは、僕らだけの特別な事情ではない。歌えるキャッチーを選ぶような“ニン”のボーカリストがほとんどだ。
それでもキャッチーな歌詞というのは人を惹きつける。耳に残る。繰り返し歌いたくなる。絶対に必要な要素である。
しかし、キャッチーであれば売れるわけではないというのもまた難しいところ。J-POPの美学という壁もあり、キャッチーすぎると逆に敬遠される場合もある。
キャッチーは、劇薬かつ不平等。
世の作詞家の永遠のテーマである。
しかし、今回の曲はボーカルの浪岡があげてきたデモから、これまでで一番キャッチーな楽曲になるポテンシャルを感じた。
そしてそれは作った浪岡も見据えているものだった。
今まで以上にキャッチーを取り込むことはできるだろうか? やりすぎてキャッチーが悪目立ちし、曲が崩れてしまわないだろうか?
悩んだ末にギリギリを攻めてみることにした僕は、思い切って曲の主人公を女子高生に設定した。
“ニン”というのは難しい。決して女子高生が主人公の歌詞を社会人であるPenthouseのボーカルが歌ってはいけない、という意味ではないのだ。自分とは全然違う主人公の歌詞でも、“ニン”に合う言葉選びやキャラクター作りをすれば全然成立する。
それでも女子高生に似合うキャッチーを成立させるには、“ニン”に対して設定していた限界を今までより広げる必要があった。
語尾、言い回し、アイテム、感情、表記、要素は様々。それぞれが織りなす複合的な雰囲気がセーフなのかアウトなのか、手探りに思案していく。
さらに言うと、パートごとにもそのOKラインは違う。今回の楽曲で言うと、Aメロは王道で清涼感があり切なさも感じるパートなので、面白さや若者っぽい感情の直接的な揺れ動きを書くのには適していない。対してBメロはそういったコミカルさが似合うパートである。
そういった分析をしながら、地雷をギリギリ踏まない攻めた言葉選びを綱渡りで成立させていく作業だった。
しかし不思議とギリギリ広げてもいいラインというのはなんとなく勘所がわかるもの。これは同じ作詞者が同じボーカリストに長年寄り添う、バンドという形態の良いところだと感じた。
実際にこのキャッチーは成立するのか? レコーディングまで不安で仕方なかったが、実際にボーカリスト2人に歌ってもらったら“ニン”にもちゃんと合っていた。
1行1行、ギリギリを攻めた作詞。これがうまくハマった時の快感。このために作詞をやっているなと思った。
“ニン”の制約の線をどこに引くかは結局作詞者の自由である。その途方もない自由こそが作詞の楽しさであり難しさであるのだろう。
キャッチーという不平等な劇薬。
そいつが暴れ出さないように計算して世の作詞家が歌詞を書いているということを、少しだけ意識してもらえたらきっと歌詞を読むのも楽しくなると思う。
<Penthouse・大原拓真>
◆3rd Album『Neon Garden』
2026年7月29日発売





