エステみてぇだな

 2026年10月7日に“NakamuraEmi”がMajor 8th Album『PATCHWORK LIFE』をリリース。メジャーデビュー10周年を迎え、40代となった彼女の半生を詰め込んだ今作には、アルバムリード曲「呼吸」を含む全10曲を収録。出会いや別れ、仕事、友情といった多様な経験を経て、NakamuraEmiの新たな出発を感じさせる作品に仕上がっております。
 
 今日のうたではそんな“NakamuraEmi”による歌詞エッセイを3週連続でお届けします。第1弾は収録曲「エステみてぇだな」にまつわるお話です。父からふとこぼれた言葉をタイトルにしたこの歌。父の生きる姿と最期を見つめた日々、今だからこそ綴ることができた思いとは…。



「エステみてぇだな」
 
この曲名だけで想像する雰囲気と、だいぶ違う曲かもしれません。
 
今年リリースのアルバム『PATCHWORK LIFE』の中で私にとって大きな存在です。
2019年 家で最後を迎えた父と音楽の日々を書いた曲です。
 
父の癌が発覚したのは2014年。直腸癌ステージⅣ。その大きな手術をする時が、事務所主催のフェス“オーガスタキャンプ”に初めてO.A.として出演させてもらえる時でした。私はまだ会社勤めで、事務所での育成期間であり、初の大舞台と父の手術が重なり、大きな覚悟をした日でもありました。無事手術も成功し、人工肛門になった父との生活がスタートし、先生や医療の凄さ・抗がん剤のありがたさ・副作用の残酷さを知りました。少しずつ病状も良くなり、父は大好きなゴルフに行けるほど元気になりました。散歩も欠かさず行っていました。抗がん剤を受けていれば、まだまだ普通に生きられるんだと思っていて、私も仕事に没頭するようになりました。
 
でもそこから4年経ち2018年の11月、体内の数値が悪くなり抗がん剤が受けられず、日に日に足がゾウのようになりました。私や母がいない時、父の友達が突然山梨から果物を持って訪ねてくれた時、ピンポンと鳴っても座椅子から立ち上がれず会うこともできなかったそうです。その辺りから「仕事を辞めて家にいてほしい」と、父が初めて母に弱音を吐く姿を見ました。病院でももう治療法はないと伝えられ、ここからは「家で過ごしたい」と父は言い、家での看護生活がスタートしました。
 
父の体調もあり、お風呂に入れることも一苦労でしたが、父がとても気持ちよさそうで嬉しそうなので私も母も幸せな時間でした。お風呂からあがると母が人工肛門を、私は化粧水の担当。父の背中に化粧水を塗っていると「エステみてぇだなぁ」と言ってきて、私も母もよく笑わせられました。おおらかで、冗談をぽろっと言って、皆とお酒飲んだりカラオケするのが好きで、優しい物知りな父。何より音楽に夢を持っていた人です。定年まで文句も言わず働いて、やっと自由な時間ができたのに、どうしてこんな優しい人のところに癌がやってくるんだろうと、答えのないことを繰り返し考えていました。その時に「エステみてぇだな」という父の言葉をメモに残しました。
 
そして2019年の1月「余命1ヶ月です」と言われ、その次の日も横浜でライブがありました。続けてレコーディングもあり、歌うと勝手に涙が出てくるというコントロール不能の状態になり、チームの皆に助けてもらいました。余命のことを父には言わなかったけど、もうその頃から一切笑わなくなったので悟っていたのだと思います。そして2月『NIPPONNO ONNAWO UTAU vol.6』のアルバムリリースに向けて日々忙しくなり、父の最後の日が近づく毎日を送りました。人間の機能がどんなものなのか、そして知りたくもない癌の威力を目の前にし、生きていることと死んでいくことを父が教えてくれました。そこからはこの曲の歌詞になっています。ライブが始まる10分前に父は亡くなり、その時の渋谷QUATTROでのライブは一生忘れません。
 
癌の手術の時も、余命宣告の時も、心臓が止まる瞬間も、全部私の音楽と隣り合わせでした。皆さんからいただいた音楽の仕事をどんな時も大事にやっていけと言われているような、父が私にくれた覚悟のプレゼントだと思っています。
 
あったことは日記のように曲にしていき、歌うことで私の中で腑に落ちて前に進める。ご飯を食べたり風呂に入ったり、それと同じような存在が私にとっての音楽です。でも父のことだけは曲にすることは無理かもしれないと思っていました。本にしてなんとか前に進もうと思っていました。でもこのデビュー10周年を機に、2025年地元の神奈川厚木で初の凱旋ワンマンライブができたこと、その後2026年1月にUVERworldさんとの2マンを終えた後に「今なら書けるかもしれない」と向き合うことができました。音楽生活25年、涙出っ放しで曲を作ったのは初めてです。毎日ウミガメみたいな瞼でした。いつか父ちゃんとあの世で会えることがあったら、やりすぎじゃん?と言おうと思います。
 
私ごとの曲ではありますが、あなたの生きていく日々、何か繋がるものがあったらとても嬉しいです。
 
<NakamuraEmi>



◆紹介曲「エステみてぇだな」
作詞:NakamuraEmi
作曲:NakamuraEmi・カワムラヒロシ
 
◆Major 8th Album『PATCHWORK LIFE』
2026年10月7日発売
 
<収録曲>
1. 幕開け
2. 今夜cruise
3. 呼吸
4. PATCHWORK LIFE
5. エステみてぇだな
6. 去年一番泣いた日
7. RIBBON
8. MICHIKUSA
9. デイジー
10. UBU