2026年3月4日に“藤川千愛”がフルアルバム『半径3メートル』をリリースしました。今作には、TVアニメ『死亡遊戯で飯を食う。』エンディングテーマ「祈り」、TVアニメ『盾の勇者の成り上がり Season 4』エンディングテーマ「永遠に一回の」、デジタルシングルとしてリリースされた「誰も言ってくれないから」の他、多彩な楽曲が収録。
さて、今日のうたではそんな“藤川千愛”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。第2弾は収録曲「悪口」にまつわるお話です。心をざわつかせる、どこの誰だか知らない人たちの悪意や悪口。だけど、もっと厄介で悲しいものは…。歌詞とあわせて、エッセイを受け取ってください。
本当はちょっとドジな犬の動画が見たいだけなのに、SNSを開いたらいつの間にか、知らない人の悪口を読まされている。
知らない人から私が会ったこともない人への悪口だ。誰かが軽はずみな発言をしようと、誰かが不倫をしようと、誰かが楽して稼ごうと、誰かの顔が変わろうと、べつにどうでもいい。そんなんで私は意気投合したくない。
たまの休みに観光でもしようと神社仏閣に向かえば、参道の竹林には小銭で削られたような雑な「死ね!」の文字、いったい誰に向けられた言葉なのだろうか?
ひょっとしたら、この竹林には誰かの睡眠を妨害するような、夜な夜な爆音で『シングルベッド』を熱唱する寂しがり屋さんでもいるのだろうか。
そして、強烈な尿意の中、探せど探せど見つからず、やっと出会えた公衆トイレの壁には小さく書かれた、「出ていけ!吉田」の文字。当然ながら私は吉田ではないので、これは私宛ではない。言われなくとも用が済めばさっさと出ていく。少なくとも私はトイレで弁当を食べたり爪を磨いたり、無駄にトイレに渋滞を作ったりはしない。
しかしながら、もしもここがお腹を壊した吉田がやっと辿り着いたトイレだったなら、彼は「なぜ?」を通り越してトイレットペーパーの芯を見つめながら途方に暮れていたはずだ。それとも、ひょっとしたら竹林で熱唱するのが吉田なんだろうか…、これは寝不足に悩む隣近所の切実な嘆きなのかもしれない…、そんな馬鹿げた妄想が頭をよぎった。それでも苗字が吉田じゃないことに、私は少しだけ安堵した。
どこの誰だか知らない人たちの悪意や悪口は、遠い分だけいくらかまだマシだ。
防護服を着て、安全な場所から眺めることができるから。「吉田、大変だな」とやり過ごすことができる。それでもやっぱり気分の良いものではない。
でも、本当に厄介なのは、もっとずっと身近な場所、私の「半径3メートル」の距離で放たれる悪口だ。
大好きな友人や、心を許しているはずの人と向かい合っている時。不意に彼らの口から、誰かを呪うような醜い言葉がこぼれ落ちた瞬間、私はいつも息の仕方を忘れてしまう。反論する勇気もなくて、空気を壊したくなくて、「へえ」「そうなんだね」と、赤べこのように首を縦に振りながら曖昧に苦笑いをする。そのたびに、相手に対する愛情が少しずつ、本当に少しずつ、削り取られていくのを感じる。反論でもして、「愚痴くらい聞いてくれよ、冷たい奴だな」なんて言われるのはもっと嫌だし。愚痴も悪口も聞かされる方からしたらほとんど一緒なのに。
そして帰り道、そんなふうに誰かの悪意に同調してしまった自分のことが、とてつもなく嫌いになるのだ。
もちろん、私だって清廉潔白な聖人君子じゃない。自分の思い通りにいかない世界で、やり場のない苛立ちを誰かのせいにして、毒を吐いて自分を守ろうとした夜はいくらでもある。悪口は、不器用な弱さの裏返しなのだ。それは痛いほどわかる。
それでも。それでもやっぱり、大好きな人には、出来る限り美しくいてほしい。手持ち無沙汰の煙草みたいに毒を吐かないで欲しい。誰かを下げる言葉で黒く染まらないでほしい。
悪口を言わない世界なんて、きれいごとだと言われるかもしれない。偽善だ、理想論だと笑われるかもしれない。でも、たとえ上っ面でも、形だけの偽善だったとしても、「優しさを選ぼうとする心」を持ち続けていれば、いつかそれは本物の優しさに変わる。そう信じていたいのだ。
どうか吉田が、これ以上トイレの壁で怒られませんように。竹林のまわりの住民が、夜は静かに眠れますように。そして、私とあなたの半径3メートルが、ほんの少しでも優しい世界になりますように。
祈りを込めて、きみというこの世界へ。『悪口』。
きみが きみが悪口を言わなかったら
きみの きみのこと好きになるかも
きみが悪口を捨てるならば
きみの彼女になってあげるよ
きみがこぼす悪口に相槌を打つ私
気を遣ってまた苦笑い そんな私が私は嫌い
そんな私が私は嫌い そんな私が私は嫌い
きれいごとだって片付ければ悩む必要もないけれど
そんなに難しいことかな?悪口を言わない世界 世界
悪口を言うきみは醜い その悪口がきみに宿る
またきみが汚れていく またきみが汚れていく
欲しいのは毒じゃない 花を育てようよ
きみが きみが悪口を言わなかったら
きみの きみのこと好きになるかも
きみが悪口を捨てるならば
きみの彼女になってあげるよ
きみが吐いた悪口が少しずつ愛を冷ましてく
きみの弱さだって分かってる それでも受け取りたくない
それでも受け取りたくない それでも受け取りたくない
完璧なんて求めてないよ 自分で黒く染まらないで
そんなに難しいことかな? 悪口を言わない世界 世界
きみの話で笑ってたいよ きみの美しさを知ってるから
優しい世界が好きな 優しい世界が好きな馬鹿かな 嗚呼
欲しいのは痛みじゃない 愛を育てようよ
悪口のない世界で踊ろう
悪口のない世界に帰ろう
悪口のない世界を歌おう
悪口のない世界を創ろう
…創ろう 創ろう
きみが きみが悪口を言わなかったら
きみの きみのこと好きになるかも
きみが悪口を捨てるならば
きみの彼女になってあげるよ
きみが きみが悪口を言わなかったら
きみの きみのこと好きになるかも
きみが悪口を捨てるならば
きみの彼女になってあげるよ
そんなに難しいことかな?悪口を言わない世界 世界
<藤川千愛>
作詞:藤川千愛
作曲:近藤世真(Elements Garden)
◆フルアルバム『半径3メートル』
2026年3月4日発売
<収録曲>
<収録曲>
1 なかったことに
2 痛いけど
3 誰かへ
4 悪口
5 祈り
6 嘘つき
7 不可逆
8 なんどでも
9 誰も言ってくれないから
10 永遠に一回の
11 ア!ニ!メ!





