春を攫った

落ちてやっと着替え出す、知り得ない春の為。
見上げていた賑わいも、名残惜しさも消えた。

露わな梢はただ軽くなった両手振って、
好きなだけ祝おう。踏まれた花、舞台にして。

誰も見覚えのない始まりは霞立つ日で。
ぼやけた光の中、棲む期待と共に目を細め
逢いましょう、さぁ。

春を攫った、また在ると信じて。
春を急いで撒き散らすだろう。
春に聞こえた花を乞う言葉は、
もう静かにやり過ごす。
咲いて行く当たり前、儚くはない。

愛しい人を繰り返し送り出す朝のように、柔らかく笑おう。
それが良いかは置いて。

いつか告げず無くなり、開ける空の光景。
夢が抜けない君は、手招く次の場所へ。

諦めるまで萌やす、そうでありたい思い懐かしい。
どうしても終われない暦をめくり、
数えきれない花背負う、嗚呼。

春をなぞって、同じ幸せ描き。
春に宿った香りに惑う。
春に降らした心を奪う雨、
もう真実さえ覆う。
無垢でもいられず、装うから。

残さずに散ってつまらない今日にそっと蒼く色付き、
何一つ飾らない思い揺れ、染まる前に手を伸ばして。

春に習った嘘の鮮やかさを。
春に埋めたじゃあね、またねを。
わざと撒いて待ち侘びた君への
ほんのささやかな返事にしよう。

春を攫った、また在ると信じて。
春を急いで撒き散らすだろう。
春に聞こえた花を乞う言葉は、
もう静かにやり過ごす。
咲いて行く当たり前、
約束も儚くはない。
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